[2019年版] 最先端のクールなビジネス、人工肉市場の最新動向。

市場に出始めた人工的に作られる食肉

人の身体は、その人が食べたもので作られます。そして、その食べ物を細胞から作り出す時代がすぐそこまで来ています。

これから生まれる子供達は、自動運転の普及で人が運転する車に乗ったことのない初めての世代になると同時に、試験管で作られた人工肉(培養肉)しか口にしたことがない人も現れるかもしれません。

そして、これらは映画や小説のファンタジーでも、野心的な起業家が語る夢でもありません。ビル・ゲイツを始めとする著名人たちが投資を決断し、獲得した投資資金を使って開発企業が研究に研究を重ねて量産化にこぎつけて、有名な企業もこぞって商品化を発表しているのが人工肉・培養肉なのです。

実際に日本にも馴染みのある企業が人工的に食肉を作るビジネスに参入をしています。

日本でも2019年3月に東大と日清食品が人工肉(培養肉)生成に成功するなどの成果が発表されましたが、日本ではまだまだ人工肉の認知度が低いです。この記事では、「そもそも人工肉とは何か」「なぜ今が注目を集めているのか」「どの程度の市場規模があるのか」に触れ、最先端で最もクールと称される食の技術にせまります。

なお、人工肉が食べ物として倫理的にあるべき姿なのかと疑問に思う読者の方もいると思います。もちろん、それは自然に沸き起こる疑問です。ただ、ここではその議論をさけ、今世の中で何が起こっているかに焦点を絞ってお話したいと思います。

そもそも人工肉とは何か

そもそも人工肉とは何でしょうか。簡単に言えば、食用の肉を似せ作られる食品なのですが、『豆腐ハンバーグ』のような食品なら、昔から食べているよという声も聞こえてきますので、人工肉の発展のレベルを整理することから始めてみたいと思います。

もっとも昔から作られている豆腐ハンバーグのような食品をレベル1として、4段階で人工肉を分類してみます。

  • 【レベル1】: 豆腐など植物由来の食材を使い、調理時で肉に近い食感を目指す(豆腐ハンバーグなど)
  • 【レベル2】: 遺伝子組換えをした大豆・ポテト・麦などの植物性タンパク質を使って、本物そっくりの味・風味のハンバーグ用などのミンチ状の肉を作ることができる。(植物由来の人工肉)
  • 【レベル3】: 牛などの幹細胞から、ハンバーグ用の肉を作ることができる。(赤身と脂身が混じり合った培養肉)
  • 【レベル4】: 牛などの幹細胞から、きれいな霜降り肉を作ることできる。(赤身と脂身が別れている培養肉)

レベル1は説明不要ですね。レベル2以降について、順番に説明を付け加えたいと思います。

レベル2:商用化が進む植物由来の人工肉

レベル2は遺伝子組み換え技術を用いた大豆・ポテト・麦などの植物性タンパク質を使い、味や風味や見た目も再現した肉です。豆腐ハンバーグなどとの違いがピンと来ない方は、植物由来の人工肉で有名なインポッシブル・フーズ社がまとめた人工肉を作る過程をまとめた動画をご覧ください。

英語ですが、言葉はわからなくともイメージが掴めると思います。遺伝子組み換えしたポテトなどのタンパク質に、ヘムと呼ばれる酸素を血液で運ぶための成分を含む液体を入れ、肉の味と風味を再現している様子が見て取れます。

(※動画は人工肉の作り方を解説する42秒から開始されます)

レベル2の人工肉は既に多くの企業が商品化を進めています。2019年4月バーガーキングが発表した人工肉を使ったハンバーガーもこのレベル2です。ハンバーガーの肉(パテ)に使われることが多いですが、チキンナゲット、ソーセージ、ピザやブリトーなどにも使われており、用途は幅ひろいです。

レベル3:生産コストが課題の細胞から作る培養肉

レベル3は、幹細胞と呼ばれるあらゆる身体の細胞の基になる細胞を使って、細胞から食肉を作ります。赤みと脂身のきれいなサシを作ることはできないものの、ハンバーグ用などのミンチ状の肉を作ることができます。このレベルは既に実現する技術がありますが、課題の焦点は肉を生成させるためコストをどのように抑えるかです。

このレベル3の商品開発を進めるベンチャー企業メンフィス・ミーツ社も、コスト削減に取り組む企業の1つです。ただ、2018年時点で同社が細胞から作る人工肉は1ポンド(453g)あたり9,000ドル(100万円)もかかってしまいます。

しかし、このコスト削減にも希望の光が見えています。パース大学の研究所は、コスト削減を進める画期的な方法を開発したと発表しており、2019年4月に5年以内に市場投入を見据えて生成方法の改善を図っていると公言したことを報じられています。
研究室で幹細胞から培養したハンバーグを、5年以内に販売へ。

レベル4:赤身と脂身のサシのある培養肉も実現可能に

最後のレベル4では、レベル3と同様に幹細胞から肉の生成を行いますが、違いは赤身と脂身の再現力です。このレベルで肉の生成が可能になれば、ハンバーグなどのミンチ以外の好きな肉料理を楽しむことができます。究極的には、好きな部位の肉の生成や、赤身と脂身のコントロールで理想的な味の追求が可能になります。

東大と日清食品のニュースで取り組んでいたのは、この赤身と脂身のきれいな肉を生成するこのレベルの研究です。しかし、この研究は実現可能性は示せたものの、大量生産とコストの面でまだまだ問題を抱えており、商品化までの工程はまだ始まったばかりと言えます。実際、東大と日清食品の研究でも、1週間かけて数cm角の肉の生成しかできておらず、生産性に課題があります。

以上、人工肉のレベルと現時点の技術レベルをまとめましたが、以降の記事ではレベル2以上の肉を「人工肉」と表記します。豆腐ハンバーグも広い意味での人工肉と言えますが、豆腐ハンバーグについて詳しく知りたい方はお手数ですが、別のサイトをご参照下さい。

(たぶん、ここまで読んだ皆さんの興味もレベル2以降の人工肉のはずですので、問題ないはずです。)

なぜ、いま人工肉なのか

なぜ近年、人工肉が盛り上がりを見せているのでしょうか。それには、世界的な食肉需要に対応するというマクロの視点と、食肉を買う消費者として味と価格が妥当になってきたというミクロ視点の両方から整理できます。

(1)マクロの視点:世界的な食肉需要の拡大

今度数十年で、アジア・アフリカを中心に世界の人口が急増するのは、皆さんご存知だと思います。少し具体的な数字を拾うと、国連の世界人口予測では、2017年時点で76億人に対して、2055年には100億人を突破すると予想されています。

そして、世界的な人口増加に加えて、世界各国の経済の拡大で肉を買って食べれるようになる中間層の人口が増えるため、次の40年では食肉の消費量が75%も上がると見られています。(FAO,国際連合食糧農業機関調べ)

食肉の消費量が増えれば、その分を生産しなければなりません。しかし、そこで困ったことが畜産による環境破壊です。畜産は、森林の伐採や大量の餌を必要とする他、ゲップなども含む排泄物が水質や大気に与える環境負荷は意外にも多いのです。

世界の温室効果ガスの18%は畜産業によるものとされており、自動車や飛行機などの全ての輸送機関からの排出量を合わせた数値を上回っているとの報告もあります。(「LIVESTOCK’S LONG SHADOW」FAO調べ)。

食肉の需要に合わせて生産量を上げていきたいのですが、従来どおりの畜産のやり方では対応しきれなくなってきました。そこで、家畜を育てるのではなく、まったく新しいやり方で、技術的に食肉を生産しようとする動きが人工肉の開発へと人々を駆り立てました。

(2)ミクロな視点:改善される味と価格

さて、世界の潮流のような高尚な話はここまでにして、視点を消費者に移してみましょう。

普段生活する人々にとって、大事なのは「美味しい」ものが「安く」手に入るかです。「美味くて」「安い」の本来なら同時に起こりえない現象が、技術革新でその「あり得ない壁」を突破したとき、消費者は一気に食いつくわけですが、そのタイミングが徐々に近づきつつあります。

レベル2の植物由来の成分で人工肉を製造するインポッシブル・フーズ社は、2019年の世界最大級の技術展示会CES2019で最新の人工肉バーガーを披露し、試食した記者達は舌鼓を打ちました。

ある記者は「今まで人工肉はファミレスのステーキのようなものだと思っていたが、これは十分にマッサージを受けた神戸牛のリブアイみたいだ」と絶賛しています。(Forbesより)

また、価格についても技術の進化で改善を続けています。植物由来の人工肉というとオーガニックのように高価なものを想像するかもしれませんが、比較的簡単に作れる植物由来のミンチ状の人工肉であれば、一般の食肉と同程度の価格帯で提供されるまでになっています。

レベル2の植物由来の鶏肉を製造するニュージーランドのスタートアップ「Sunfed Meats」は、生産規模を拡大することで「畜産の肉を含めて、世界一安い肉を作る」と公言しているほどです。

人工肉のトレンドの背景をまとめると、世界的な食肉需要の高まりを背景にして、人工的に肉を作り出す技術が発達し、味も価格も消費者に受け入れられるレベルが見えてきたことで、企業が次々と人工肉ビジネスに参入するようになったと言えます。

人工肉の市場規模

様々な企業の参入が広がる人工肉市場ですが、その市場規模は2023年で世界で約1500億円になるとも算出されています。(日本能率協会総合研究所調べ, 2019年4月公表)

世界の食肉業界の市場規模はおよそ7500億ドル(約82兆円)と言われており、2023年時点での食肉に占める人工肉の割合が多くはありません。しかし、2019年時点では1000億円程度とされている人工肉市場が4年で約1.5倍に拡大する成長率は目に見張るものがあります。

こうした動きに対して、ビジネスのビックプレイヤーも人工肉を手がける企業への投資が活発に行われています。

ビジネス感覚の優れた投資家がこぞって人工肉に投資

先程レベル2の例に上げたインポッシブル・フーズは、2015年夏にグーグルから300億円で買収提案を受けています。金額で折り合いつかなかったため、結局グーグル関連会社でベンチャー企業に投資を行うグーグル・ベンチャーズを通じた出資に留まりましたが、グーグル・ベンチャーズ以外にも、ビル・ゲイツなど著名な投資家から出資を受けています。

レベル3で、幹細胞から培養した牛肉、鶏肉、アヒル肉を製造するサンフランシスコのベンチャー企業メンフィス・ミーツには、ビル・ゲイツやリチャードブライソンが投資をしています。

メンフィス・ミーツに投資をしたブランソンは「これから30年で、私たちは動物を殺す必要がなくなり、全ての食肉は現在と同じ味を保ったまま、クリーンな肉、または植物原料の肉になるだろう。それらは同時に、私たちにとってより健康的なものになるはずだ」と述べています。

人工肉は新たなトレンド

日本ではまだまだ人工肉は認知度が低いものの、いずれ日本にもその波がやってきます。

実現するための技術があり、投資家が進んで資金提供をするような企業があり、いままでの食肉よりも安い価格になる可能性があれば、(もちろん厚生労働省の許可の問題もありますが)日本で人工肉が販売されるのは時間の問題です。

まだまだ技術は発展途上であり、なおかつ消費者の心理的な抵抗もあるため、人工肉が普及するには時間がかかることは事実ですが、長期的にはクラウドやAIと同じようにビジネスのトレンドを形成する可能性が十分にある分野であることは抑えておきたい点です。